タカラヅカメモ

全組観劇のライトファンによる宝塚感想置き場。

宙組大劇場公演「天は赤い河のほとり」「シトラスの風」/3回目

三枚もチケット確保してたんだよなあ…そりゃそうだよなあ…それだけ、小柳奈穂子×「天は赤い河のほとり」に期待してたんだもんなあ(めそめそ)ってなりながら、三回目見てきた。シトラスの風が思いの外、好みな感じの素敵なショーでよかった、っていうのが三回見ての総括。

そういうわけで、まったり感想。芝居についてはノーコメント。

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・舞踏会の場面で、真風涼帆(軍服が似合うハイパーイケメン)が急にストン、ってしゃがんでポーズ決めるあたりがまさに「今から求愛のダンス踊らせて頂きます」にしか見えなくて、いつもクスってなる(※)んですが、めちゃくちゃ好きです。大好き。「シトラスの風」で一番好きな場面。

(※ 朝夏まなと版もそうだったし、むしろ朝夏まなとだと長い手を見せ付けてる感満載だったので余計そう思った)

・「かつての恋人(幼馴染)と再会した(そしたら彼女にはパトロンがいて…)」って朝夏実咲コンビがWOWOWで解説してたような記憶があるけど、真風星風ペアの今回だと、「親友の妻と恋に落ちた」って感じに見えて、それはそれで面白かった。間男感マシマシ。芹香斗亜と真風涼帆が同年代に見える(だからパトロン感が薄い)のと、星風まどかに薄幸の美女感がないからかなあ。あと、「おかえり」みたいな感じで挨拶してる真風芹香コンビの姿が、久しぶりに再会して久闊を叙する友人の図、にしか見えなかったせいもあるかも(戦地帰りの真風涼帆と、名家の子息であるところの芹香斗亜。二人は学生時代からの身分差を超えた友人で……っていう謎な脳内設定が瞬速で閃いた)。

・現時点で一番同世代感のあるトップと二番手なので、対等な友人同士での三角関係をやるなら絶対宙組で見たい。クラシカルでベタな、恋と友情の板挟みみたいなやつやってくれないかなあ。演出は全然クラシカルじゃなくていいから。社交界のドンに純矢ちとせ、みたいなベタな配役で。

・あのすばしっこそうな娘役いいなあ素敵だなあ目を惹くなあ、って思うと、大体綾瀬あきな。自覚はないけど、多分ファンなんだと思う。一番好きな綾瀬あきなは、明日へのエナジーで、黒の衣装着てかっこよく踊っているところです。フェミニンな娘役が凛々しく踊るのに心底弱いし、柄悪く振舞うのにもめちゃくちゃ弱い。娘役だけのダンサブルな場面で芯取ってくれないかなあ。一度でいいから。

・どの場面もわりと好きなんだけど、アマポーラだけちょっと退屈。こういうまったりした歌で、ダンスもわりとまったりしている場面がそれほど好きじゃないので。せめて衣装がもうちょっと素敵だったらよかったのになあ。紫はちょっと飽き気味(概ねクラシカルビジューのせい)。

・芝居仕立ての場面が好きなので、往年の名ダンサーすっしーさんの場面も好き。光るボックスのセットがわりと印象的。衣装も素敵(ただ、あの白い靴?靴カバー?だけ微妙だった気がする(デザイナー的には、あれがイイ!なのかなあ))。最後、復活した(=老いた肉体から解放された)すっしーさんが踊り狂う展開でも面白かった、とはちょっとだけ。

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次はWSSなので、頑張ってチケット確保する所存。「新作か?」っていうくらいキャストが刷新されたので、今からワクワクしてる。特に、澄輝さやとのリフと桜木みなとのアニータ。和希そらのバウも見たいんだけど、ここのところバウのチケットが全然取れないので、難しいかなあ……(取れたらいいなあ)。そんな感じ。

 

朝夏まなとコンサート「MANA-ism」/1回目

休む…のは無理だから、せめて半休取るぞって思ってたら、まあ色々あって(無駄に外面がいいせいで午後の打合せを断れなかった)、結局結構ギリな感じで会社を脱出。グッズ買うために長蛇の列に並んだものの、あと五人くらいのところでタイムオーバー…という、我ながらダメダメな感じで始まったコンサートだったわけですが、望海風斗と瀬戸かずやの登場で大体吹っ飛びました。ただでさえドッキリかな?って思うくらいいい席だったのに、望海風斗に飛ばされる投げキスを「お、私にやな」って勘違いするのに絶好の席で、正直今年の運はこれで大体使い切った気がする。望海風斗が背後にいるってのもまあ嬉しいし、「あやちゃん」呼びを生で聞けたのも興奮した。でも、一番は朝夏まなとが私(の後ろにいる望海さん)を見つめて、私(の後ろにいる望海さん)に投げキスしてくれたことです。幸せ過ぎて、私明日死ぬのかな?さすがに悔いはあるゾ…、ってちょっと思った。

というわけで細々した感想は以下箇条書きで。ショーもそうだけど、芝居以外のイベントの感想が「かっこよかった」で終わりがちな人間なので、ろくな感想じゃないです。

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・開幕直後、歓声で振り向いたら、ライトを浴びて佇む朝夏まなと。ちょっと宝塚めいたスパニッシュなジャケット姿(全体的には女性的な仕上がりなんだけど、登場の瞬間は上半身しか見えない)。めちゃくちゃかっこよかった。多分、デロデロに崩れてヤバイ顔してたと思う(でもってその顔がステージから丸見えなので、いかんいかん、って必死でおすましした/大体終始そんな感じ)。

朝夏まなとラムザファイナルファンタジータクティクス)見たかった……って書いたことあるんですけど、その理由の半分くらいは、後ろでちょこっと髪くくった朝夏まなとが見たい、ってだけでして。つまり何が言いたいかっていうと、一幕の髪型がクリティカル過ぎた……ってことなんですけど。興奮のあまり死ぬかと思った。「あ、私って、何よりもまず、朝夏まなとの顔が好きなんだな」、って実感する一時間だった。

・衣装がどれも素敵で、すごくよかった。スカートがなかったのだけちょっと残念といえば残念。でもまあ、それはマイ・フェア・レディのお楽しみかな。

・いくつか芝居めいた雰囲気で歌う曲があって、やっぱり芝居が見たいんだよなあ、って思った。コンサートも楽しいけど、芝居なんだよ!って。

・ちょいちょい背後から聞こえるフゥー!って声が望海風斗のような気がする(多分気のせいじゃない)。

・印象に残ったのは、ジキルとハイドよりの2曲目(芝居っ気が強かっただけ説)。あとはタイトルが分からないけど聞き覚えがあるから、多分歌謡曲の何か。かなり女性的に高めで歌ってた曲も良かった(曲が覚えられないタチなのですでに記憶が曖昧……)。

・意外とダンスが少なくて歌が多めで、オーソドックスなコンサート、という印象(というほどコンサート見てないけど)。ダンス場面がどれも素敵だったので、ダンスコンサート的なものも見たいなあ、と。相変わらず、さりげない手の振りでも長い腕が印象的でとにかく素敵だった。顔も好きだけど、あの長い腕も好き。

・あと、WICKEDを見に行ったときも思ったけど、男性ダンサーの身体能力って凄い。アクロバットな振付を目の前で繰り広げられると、思わず、わーおって言いそうになった。なんか、肉体の圧みたいなのが迫ってくる。

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2回目はもうちょっと落ち着いて見れるんじゃないかなあ…(どうだろ?)って感じです。もう少しマシな(マトモな)感想が書けるといいな。

 

宙組大劇場公演「天は赤い河のほとり」「シトラスの風」/2回目


宝塚って基本的に新作主義だから、始まるまで面白いか面白くないか分からないんだけど、始まる頃には土日のチケットは大体完売しちゃうから、一回見て面白かったら買い足すって方針じゃ(面白いからもっと見たい!ってなった時に)全然見れないんだよね。だから、演目と演出家でヤマ張ってある程度バクチ打つ必要が出てくるんだけどさあ……っていう、ヅカファンでもなければどうでもいい類の四方山話を話の流れで会社の後輩にしたら、「で、今回の公演はその賭けに勝ったんですか?」って聞かれたので、「負けた……」って答えました。ツライ。

ただまあ、意外と二回目が辛くなかったというか、「絶対発狂するなコレ」って覚悟して臨んだ割に、「駄作だけどまあ、発狂するほどじゃないな」って感じで平穏に見れたので、ちょっとビックリした。あと、今回は<宝塚初めて/四十年ぶりくらいに見る>っていう初心者二人を引率したんだけど、それなりに楽しんでもらえたみたいでホッとした。まあ、「黒い人がいつの間に味方になったのか分からなかった」「どのタイミングで反乱軍だったはずのカイルが(地位を回復して)正規軍と合流したのかが謎」っていう最もな指摘は受けたけど(こういう矛盾を宝塚で見る度に、脚本家は分かってて見ない振りしてるのか、本当に気付いてないのか、どっちなんだろ……って思うんだけど、実際どうなんだろう(前者ならまだ救われる気がしなくもない……))。

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そういうわけで、細々箇条書き。褒めてません(!)

・意外と辛くなかったんだけど、ポジティブな感想が全然浮かばないあたり、まあ、アレな感じ(お察しください)。

・とりあえず、戦争の場面は、太王四神記みたいに人海戦術(&マスゲーム的な振り付け)で、もっと派手にやって欲しかったなあ。なんか、小競り合いにしか見えなくて、全然「国と国の戦い」っていうスケールの大きさがない(しょぼい)。でもって、銀橋でカイルとラムセスが謎の取っ組み合い始めるので、さらにその印象が増す。原作のあれは、長年の積み重ねがあった上での、地位も身分も、鉄というアドバンテージも抜きにした、文字通り身一つ(!)での、「男と男の勝負」でちゃんと見所(=必然性のある場面)なんだけど、舞台版はカイルとラムセスの絡みも関係性もないので、「この二人は(自分の職務も放り出して)一体何をやってるんだか……(呆)」としか思えなくてですねえ(→あと、「お前の命令なら兵は動くだろう」っていう原作では胸熱だったユーリの見せ場も、そこにいたる部分が端折られているので、全然見せ場になってないんですよね。残念ですね……)。

・宝塚なんだからまずカイルがかっこよくなければ!(ラムセスもかっこよくなければ!)っていうのは(実際この二人がかっこよく演出されているかは別にして)分かるんだけど、そもそも論として、ユーリがかっこよくなければ(ユーリが評価に値する人物でなければ)この二人もかっこよく見えないので、やっぱり序盤にユーリの見せ場が必要だと思うんですよね(現状、鉄ゲットイベントが全然カイルの見せ場として全く効果的じゃないので、じゃあ原作通りユーリの見せ場でいいじゃん、ていうのが本音)。まあ、尺が足りない原因は風呂敷の広げ過ぎなので、芹香斗亜をラムセスに配役してしまった時点で負け戦なのが辛いところなんですけど。

・普通に、カイルとユーリの出会い→ティトの死→ズワとの戦いと鉄剣ゲット→黒太子との戦い→連れ去られる→捕虜の待遇向上エピソード(に、流行り病エピソードを足す)→再会(ここで二人は想いを確認し合う/でもまだ、ユーリは「日本に帰る」が第一目標/カイルも「日本に帰してやらねば」って思ってる)→諸々→カイルの危機を知らされたユーリは、帰還のラストチャンスを捨てて、カイルを選ぶ――っていうまとめ方じゃダメだったんですかね……(ナキアに勝利せずに終わるのが座り悪くてダメっていうなら、どこかで「エジプトと内通している証拠」をゲットして、失脚を示唆して終わる…とかでいいじゃん……)

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シトラスの風は相変わらず良かった。

・バッディでも思ったけど、ライトの点いた大階段に男役が並ぶとそれだけでおお!ってなる。ただ白衣装だと明るくなった後が映えなくてそれは残念。

・ショーが意外と初心者二人に不評だったので、初めての人を誘うなら一本物の方がいいのかなあ、と思った。わりと、「初心者には二本立て!」みたいなことが言われ勝ちだけども、ショーが面白くなってくるのって、タカラヅカのお約束が分かってきて(≒ショーの楽しみ方が分かってきて)、それなりにスターの顔と名前が一致してから(※)、のような気がしなくもないんですよね(※ じゃないと、「知らない人が」「知らない歌を歌ってる」になりがち、というか……)。

・そういう意味では、ショーに筋立てがある月組の方がよかったかもしれない。

 

宙組大劇場公演「天は赤い河のほとり」「シトラスの風」/1回目

芹香斗亜がラムセスって時点でちょっと嫌な予感はしてたし、明らかに時間が足りないとしか思えないキャスト発表でそれなりに覚悟はしてたつもりなんだけど、心のどこかに「小柳奈穂子だからそこそこやってくれるんじゃないか」っていう期待があったらしく、見終わってめちゃくちゃ悲しい気持ちになった。どんなに贔屓目に見ても、オブラートで包んでも、駄作の一言だった。原作ファンなのですごく悲しいし、この原作で面白く作れないのって演出家の怠慢でしかないのでは……って思って腹が立ちもする(カンパニーでも同じこと思ったな……)。

ただまあ、レベル高めの駄作だけど不快な作品というわけではない、と思うので、原作に思い入れがなければ(原作が破壊されたことが不快でなければ)意外と楽しめなくもないかもしれない(ただし保証はできない)。なお、原作ファン(特にユーリが好きだった人)には全くおすすめできません。

何が致命的かというと、「天は赤い河のほとり」という作品が「平凡で普通の女の子が理由もなくモテる話」ではない、ってことを小柳奈穂子が理解していないような気がする、あたり(→原作ユーリって(本人の自覚はともかく)明らかに「平凡で普通の女の子」ではないじゃないですか)。どちらかというと、原作においてユーリの描かれ方自体は少年漫画的というか、現代日本では全く必要とされない(だから開花するはずもない)「資質」を備えた少女が、それが求められる状況と立場にある中でそれを徐々に発揮していく、そういう英雄譚を少女マンガでやった、という構造の(そしてそこに一番の魅力がある)話なわけで。そりゃ、英雄がタダの「女の子」に引き摺り下ろされた英雄譚はもはや英雄譚ではないし、そんな話が面白いわけがない、ってのは火を見るより明らかなんですよね。

天は赤い河のほとり」という作品において、カイルよりラムセスより黒太子より、一番かっこよくあるべきなのはユーリなんだよ……ユーリがキャピキャピした「女の子」になってしまった時点で、そして彼女の成長も進歩も何一つ描けなかった時点で、この作品は明確に失敗なんだよ……(脚本の責任であって、星風まどかは何も悪くないです)。

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そういうわけで、尽きない不満とか感想は以下、箇条書きにて。

・「ユーリに魅力がない(=魅力が描かれない)/イシュタルとして支持される根拠となる場面がない」ために、カイルを初めとする男性陣がユーリに惹かれる/ユーリを認める理由が理解できない(=「惚れるに値しない女にあっさり惚れる」せいで、彼らが全くかっこよく見えない)、というのが、多分、一番ダメなポイント(君ら、マジでユーリのどこに惚れたの?どこを評価してるの…?)。あと、「この娘は泉から現れたイシュタルの化身だ云々、私たちの勝利は約束されている云々」ってカイルが演説する前に、すでに、「イシュタル様万歳!」って民衆が叫ぶのがホント意味分からなかった。ノリノリで「ユーリ・イシュタル」って名乗りだすユーリも正直謎。

・でもって、ユーリとカイル関係がほとんど描写されないのと、作中の経過時間が全くないように見える(マジでユーリ召喚~戴冠式が三ヶ月間くらいの話に見える(※))ので、どうしてユーリがカイルを好きになったのかが全然分からない(=なので「残る」という選択に全然カタルシスがない)。ていうか、ユーリが「普通の女の子」過ぎて、「残ること」の意味/その選択で犠牲にするもの、をちゃんと理解してる?覚悟してる?大丈夫??、って心配で仕方がなかったりする。

(※ ミタンニがサイレント滅亡するのも、カイルの即位がまるっと端折られているせいで、「カイル・ムルシリ治世下における最後の戦争となった」って語られる戦いが、明らかにアルムワンダ皇太子の治世下であるようにしか取れないのも別に許せるんだけど、作中の時間経過がないように見えるのは引っかかって仕方がなかった。「一年後、必ず私がお前を返してやる」の一年後って、一体どのタイミングで過ぎたんでしょうね……)

・ナキアがわざわざ日本からユーリを連れて来たのって、カイルを呪い殺すためで、それは直接的な手段ではカイルを排除することができないから(だから呪術で殺す→生贄としてユーリが必要)であるハズなのに、すぐにそれを忘れてガバガバな力技で謀殺し出すのがホント謎過ぎた。それができるなら、最初から呪術なんてまどろっこしいことせずにやっとけば良かったのでは。でもってそのガバガバな陰謀で普通に処刑されそうになるカイルがあまりに無能丸出しでテンション下がった(「有能な皇子」設定が行方不明になってませんかねえ……)。

・原作は長いので、(状況の変化に合わせて)ナキアの行動も二転三転するんだけど、そこはちゃんと因果関係を踏まえた上で再構成しなきゃダメだし、そもそも時間制約のことを考えれば、今回の作品におけるナキアの最終目的は「ジュダの皇位継承」/その手段は「ユーリの確保(=カイルの暗殺)」で一貫すべきだったのでは……

・あと、ティトがウルスラの最も重要な役割を代わりに果たすアイデアはともかく、「主人に早く皇位に就いて欲しかったから皇帝を毒殺した」って従者が告白するのって、庇いたいのか陰謀の片棒担いで留め刺しに来てるのか分からんな……って。序盤に伏線張って、「ナキア皇后のご指示でした」って言わせるべきだった思う(だってそれが一番重要なところじゃん!ウルスラが報われないよ!!)。

・ちゃんと背景とか心情が描かれるのが、ナキアとウルヒ(あとネフェルティティ)だけなので、そこが一番魅力的に見えちゃうというアレ。「産みたくもない皇帝の子を産み、生まれた子は金の髪を持っていた/だから私はあの子を皇帝にしてみせる」のくだりが入ってたことだけは唯一、小柳奈穂子を褒められる(あと、若かりし頃のナキア→現在で歌い継ぐところも好き)。

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・ちゃんと剣が青銅風なのは芸が細かいと思った。

・カイルの異母姉の盲目設定が生きていることに戴冠式で気付いて、お!って思った(できれば目を瞑ってやって欲しかったけど、あそこでそれをやるのは危険すぎるか)。

・澄輝さやとのネフェルティティがめちゃくちゃ良かった。かつてはさぞ美しかっただろうと思わせるような立ち姿の、どこか人生に倦んでいる女性。「生きていくためには仕方がなかった」というのは確かに一面の真実ではあって、「そうではないはず/私はそうはならない」っていうユーリの眩しさは確かに尊いんだけど、誰もがそうは生きられない、という残酷さも秘めているよなあ、と。残念ながら舞台のユーリにはそんな深みもバックグラウンドもないんですけど(だってまだ来て三ヶ月くらいだからね仕方がないね(!))。

・「泉を壊してしまえ」っていうナキアの指示をイルバーニが聞いてるのって、「ユーリ様にはこの国に留まって頂く」の伏線というか、原作リスペクトだと思うんだけど、まあ、状況も環境も変わった舞台でそれやってもね……っていうか、ナキアの目的はほぼほぼ達成されてるから別に泉もユーリももうどうでもよくない?

・純矢ちとせのナキアがすごく良かっただけに、ナキアとウルヒをラスボスにして、ちゃんとユーリとカイルの関係メインで、カイルの即位まで、くらいを再構成すれば良かったのに……って心底惜しい。芹香斗亜(二番手役)をザナンザかウルヒにしてさあ……(ぐちぐち)。

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・ショーはそれほど期待していなかったせいか、すごく良かった。芝居の傷が癒された。まあ、再演を繰り返しているとはいえ、シトラスの風を生で見るのが初めてだから、というのはあるかもしれない。映像で見ている時は、「明日へのエナジー」がそれほど名場面だと思わなかったんだけど、生で見ると確かにいい場面だった。迫力に圧倒された。あと血管ブチ切れそうな娘役の高音が印象的。誰だろう。美風舞良?

・ステートフェアの傘を回して歌う可愛い子ちゃんたちの中に、純矢ちとせと美風舞良が混じっている(というか、星風まどかを挟んでメイン張ってる)のにちょっとびっくりした。え、これ、可愛い子ちゃん枠じゃない…の……? どういう人選なんだろう……

・決闘の場面が期待通りすごく良かった。朝夏まなとシトラスの風だと、芹香斗亜のところに寿つかさが入っていたので、パトロン感が半端なかったんだけど、今回は真っ当に真風涼帆が間男している感じ(!)。あの、片手上げて急に座り込む振付が結構好きです。

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そういうわけで、来週も行って来ます。

 

月組大劇場公演「カンパニー」「BADDY 悪党は月からやってくる」/2・3回目


カンパニーが二回目ですでにめちゃくちゃ辛くて、ホント、私石田昌也好きじゃないなあ……って実感した。ただこれ、幕間の客席の雰囲気(※)とか漏れ聞こえてくる感想聞く限りでは、評判悪くないんですよね。むしろ、結構いい。「面白かった」「泣いた」っていう声を結構聞くし、まあ、そういう感想も全く理解できないわけでもない(石田昌也としては、確かに悪くない方だと思う)。ただまあ、私は石田昌也が好きじゃないので、ピンポイントに差し込まれるデリカシーのない場面と台詞(やり取り)のセンスのなさ(と陳腐さ)が勝って、二回目でもう限界でした。ちょこちょこ発狂しそうだったし、三回見たら発狂してクソミソに言ってたと思う。

(※ アレなレベルの駄作だったときの幕間の客席の雰囲気って相当ヤバイじゃないですか。「え……何なのこれは…私たち一体何を見せられたの」みたいな、理解できない(したくない)観客の戸惑いが充満してる感じで。訓練されたヅカファンばかりならギリギリ笑いに変換されたりするんだけど、「わあい、タカラヅカはじめて」みたいな無邪気なお客さんばかりだと居た堪れなくて、「ホントごめん毎回こうなワケじゃないから(懲りずにまた来てお願い)」ってこっちが謝りたくなる……んですよね。少なくとも今回は全然そんなことなかったのでよかった/だから、原作付けた意味はあったんだと思う。田淵大輔だったら、普通に良作になったのでは……と思わなくもないけど。そして、それならもっとバッディに通えたのに、って思うけど)

そういうわけで、午前公演の芝居をスルーしてショーだけ見たのは我ながら英断でした!

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・バッディは傑作(断言)。

・海産物(違う、ブルーラグーン)の場面で、食い逃げして銀橋に出てきて以降の全場面・展開がめちゃくちゃ好き。特に、「今日は食い逃げ/昨日は駐車違反/スケールが小さすぎやしませんか♪」って歌うスイートハートと、そこに「今帰ったぞ~」って折り詰め下げて帰ってくるへべれけバッディと、「なぜ俺を追いかけない!?逮捕しない!?」ってショックを受けるバッディと、「悪いことがしたい/いい人でいたい」って歌と白黒の衣装とフォーメーションがハイパーかっこいい中詰めと、「私は今怒ってる!/生きてる!!」っていうグッディの感情の爆発にグッと来るラインダンスと、白く光る階段とのコントラストがかっこいい男役ダンスと、ドラマティックなデュエットダンス!(ほとんど全部だなこれ)

・「やりたいことをやる」のがバッディの信条だったはずなのに、「グッディの目を引くために(追い掛けて欲しいという理由で)」惑星予算を盗み出すと決めた(=いつの間にか目的と手段が入れ替わってしまった)時点ですでにまあ、バッディの大敗北なんですよね(でもそこにグッディへの愛を感じる)。上田久美子って、愛の伝え方がストレートじゃないのにはっきりと熱があって、そこが素敵だと個人的には思います。

・惑星予算を強奪して、空に去っていくバッディたちの映像が、宝塚の映像使いとしては珍しく効果的で、スイートハートの投げキスがめちゃくちゃ色っぽくて良かった。あと、足ブラブラしてるポッキーが可愛い(←女装していることに二回目にして気付いた)。月城かなとは超美人なのに、ポッキー巡査の女装が普通にポンコツですごく好き。

・バッディガールズが全編色っぽくてかっこよくてよかった。周りに侍る女のかっこよさってのは、侍らしている男の魅力にストレートに作用するので、バッディガールズがかっこよければかっこいいほど、バッディのイイ男度が上がる。完璧な仕事だった。あと衣装がどれも素敵。赤いレオタードで大階段に仁王立ちしているところとか、最高にイイ女。

・あとは……宇月颯と早乙女わかば恋愛模様がすごく良かった。悪い宇月颯が大好物(グランドホテルとか大好き)なので、ずーっとニヨニヨしながら見てた。なんかちょっと、「若頭とお嬢様」感あって、悪くて大人な宇月颯が自制している(風に見える)あたりがすごく好きです。最後、ハンカチを投げ捨てるところとか、「意識して悪い顔してる」みたいに見えるんですよね。突き放すのが愛なんだわっていう。あと最後にデュエットダンス風に二人で踊るのが好き。めちゃくちゃ良かったし、ほろりとした。

・輝月ゆうまの宇宙人が、ずーっと指をワキワキしているのに三回目にして気付いて、面白かった。終始、ワキワキ星人。めっちゃ宇宙人感出てる。

・バードたちが監視用ロボットにしか思えなくて、そこに一番ディストピアSF風味感じたんだけど、実際どうなんだろう。「森から出てきたばかりなの」って台詞が、「製造された(稼動し始めた)ばかりなの」って意味にしか聞こえなかったんですよね。あと、「タイヘン!タイヘン!」っていう無機質なセリフ回しが最初はちょっぴり怖かったのもある(慣れてくると結構可愛い)。

・で、グッディもそういう意味では怪しいし、全員そうでも面白いな(※)って思って、以下の妄想に繋がります。

(※)つまり、登場人物総AI(ロボット)説。「私は今怒ってる/生きている」って躍動するラインダンスは、治安維持目的のために作られて(今までその役割に何の疑問も持っていなかった)AIであるところのグッディが真の意味で「自我」を獲得した瞬間で、ピースフルプラネットのおままごと感っていうのは、主人を失ったAI(ロボット)たちが「平和を享受する」というおままごとに興じている故であり、なぜピースフルプラネットの君主が「女王」かというと、AIを統制する(していた)のがマザーコンピュータだったから……みたいな、そういう話。百年も二百年も生きられるのは彼らがヒトじゃないからだし、全大陸を緑化しても花で埋め尽くしても問題ないのも全部、「生きているヒトがすでにいない」からなんです。彼らは人類の社会を模しているだけだから、あれだけ未来だというのに古臭い紙幣が現役だったりする(=人類社会には「お金」が必要である、というだけで存在している)。多分、高度に自動化された戦争の行き着く果てに人類は滅び、地球のありとあらゆる生き物は死に絶え、残ったAIたちは一度滅びた地球に仮初の楽園を築き上げた(その過程で意に沿わない存在は月に放逐された)……みたいな壮大な背景があるんだと思う(全部妄想です)。

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なんだかんだ三回見ても見足りなかったので、バッディ目当てでライブビューイング行こうかなあ(でもカンパニーがなあ)って悩んでます。自分で思ってた以上に石田昌也アレルギーだったことを自覚したのでどうしようかと。

 

東京宝塚劇場公演「ひかりふる路」「SUPER VOYAGER」/5回目(中継)

なんというか、望海ロベスピエールが剥き出しの感情と質量のある歌声でひたすらに殴りつけてくる、そんな狂乱の一時間半(わりとマジで)。映像に切り取った時点で別の作品になるのが舞台作品の常とはいえ、あまりにも自分が見てたものとは別のものが出てきたので、映画館で死ぬほどびっくりした。おかしい……私が知ってる「ひかりふる路」となんか違う……。でもめちゃくちゃ新鮮で楽しかったし、カメラワークひとつで全く別の作品になる、というのが、中継(=映像化)の面白いところでもあり難しいところでもあるよなあ、と改めて思った。宙組宝塚千秋楽は、「自分の視点に限りなく近い/だからノーストレス」で、今回の雪組は、「自分の視点とは全然違う=別の作品を見てるみたい/だから印象が変わって面白い」って感じ。素敵なカメラだった(ちなみに宙組東宝千秋楽のアレは放送事故です)。

てことで、テキトーな感想を以下に。

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・千秋楽だからか、望海風斗のリミッターが完全にブチ切れてる(怖い)。

・やたらとカメラが朝美絢を抜くので、サンジュストロベスピエールに向ける、ちょっと正常な範囲を逸脱したヤバめの「独占欲」みたいなものがびゃんびゃん伝わってきて面白かった。特に、彩風ダントンが「革命も一段落したし、お前も結婚しろよ」とか何とかロベスピエールに言う場面(そこでエレオノールじゃなくて、サンジュストを抜くのって生田先生の意向なの?)。チラチラ映る朝美サンジュストが常に、「あなたの偉大さを一番理解しているのは僕なのに」みたいな顔してて、思わずヒェッってなった(怖い)。

サンジュストロベスピエールに向ける感情っていうのは、まあ、ラブではない(サンジュストは別にロベスピエールに愛されたいわけではない)ので、ロベスピエールの結婚とか恋愛を忌避するのは別に嫉妬とかでは全然ない、と思うんですけど。ただ、ロベスピエールに対する神格化がちょっと行き過ぎてるせいか、「凡百の女にあなたの価値が分かるもんか/そんな女、あなたには相応しくない/妻なんて、あなたには必要ない」ってスタンスで一貫しちゃってるような気はするんですよね(例え、美貌と知性と教養を兼ね備えたスーパーウーマンでも、サンジュストが認めることはないんじゃないかと)(サンジュストがいる限り、ロベスピエールは結婚できねえな……)(妻=友人って置き換えると、友達もできねえな……)。

・あと、演ってる朝美絢がああいう美貌の人なので、サンジュストロベスピエールに向ける視線に、「少女の純粋で潔癖な恋着」めいたものが見え隠れする瞬間があるのが、なんというか、話(というか二人の関係性)をややこしくしている気がする。潔癖な年頃の少女って、たまにギョッとするほど残酷な一面を見せたりするじゃないですか。あの感じが実にサンジュスト

・しかし、映画館のスクリーンのアップに耐え得る美貌って一種の才能ですね。

・リミッターを跡形もなく破壊した望海風斗の顔がわりと「どう見えるか/どう見せるか」っていう計算を失って乱れがち(!)だったんですけど、なぜか不思議とそれがかっこよくて、キレイではないのに美しくて、印象的。特に、ダントンの裏切り発覚から、恐怖政治に至るまでの一連の流れのところ。疲れ果てて憔悴しているのに、目だけが爛々と輝いていて、額に落ちた髪が色っぽくて、めちゃくちゃかっこよかった。望海風斗って白目が大きいのが、舞台で映えるなあ。贔屓目入ってます!

・「全てだ!全てをやるんだ!!」がなくなったのがいまだに悲しい。

・敢然と処刑台に赴くロラン夫人に夢中すぎたせいで、ジロンド派の処刑の場面のロベスピエールサンジュストを中継で初めて見た、ような気がする。やれ、って指示を受けて超嬉しそうだった。サンジュストくんって、ロベスピエールを見るとき大体恍惚としてるよね……。

・「今こそ彼の言葉を聞こう!」って言葉でせり上がってきたロベスピエールが銀橋を渡るところ、銀橋のライトが端から順に点灯していくのが夢のように美しかった。革命が最も輝いていた瞬間、彼らの目に写るのは間違いなく明るく輝く未来で、目の前にはひかりふる路が真っ直ぐに伸びていた。彼らの結末を知った上で見るとき、「これからも三人で仲良くやるんだ!」よりもむしろこの場面で泣きそうになる。望海ロベスピエールの歌声が希望に満ち満ちているのでなおさら(あと、この歌が祭典で繰り返されるのがまた、憎い演出だなあ、と)。

・寄り気味のカメラと迸るパッション!のおかげで、これまでで一番マリーアンヌが理解できたような気がする千秋楽。彼女の「私は二度も家族を失った/家族だけじゃなくて愛する人も」みたいな台詞、「二度」が「愛する人」にも掛かっているように聞こえて好きです。「私が愛したあなたもまた、革命に奪われた」って、マリーアンヌなりの精一杯の告白じゃないですか。同時に「今のあなたを愛してはいない」っていう決別の言葉なのが残酷なんだけど。

ロベスピエールの説得に失敗したダントンの頬に流れる一筋の涙。なのに、湿り気のない声で、別れを告げるのが、最高にかっこよかった。ビジュアルじゃなくて(この公演、メイクは正直失敗してた気がする)、その生き様がかっこいい。彩風咲奈に関しては正直、贔屓目入っているので冷静な判断ができない。

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・超変化球な月組の後だったので、王道には王道のよさが(いつもの宝塚のよさが)あるんだよなあ、って思った。バッディ最高だったですけどね。少なからず、アイデア一発勝負!みたいなところはあるので。

・前回くらいから、オープニングの歌詞に慣れてきたような気がしてたんだけど、全然そんなことなかった。やっぱり恥ずかしかった。特に、「俺が暖めてあげる」「ギュって」のあたり。星組エンターテイナーにも似たような歌詞があったんですけど、野口幸作のツボなんですかね……。

・暴風雪は中継で見ると結構アリでした。

 

 

月組大劇場公演「カンパニー」「BADDY 悪党は月からやってくる」/1回目

良いニュースと悪いニュースがあります。「バッディが最高に面白くてかっこよくてテンション上がる素敵なショーだった」というのが良いニュースで、「カンパニーが突き抜けた駄作じゃないけど通うのがツラいやつ」っていうのが悪いニュース。バッディにはもれなくカンパニーがついてくるよやったね!(白目)

いや、カンパニーもヤバイくらいの駄作では全然なかったんですけど。ただ、最初からなかったことにするくらいアレだったわけじゃないせいで逆に判断が難しいんだわって、今頭を抱えてる。何回くらいなら楽しく見れるんだろう。二回目くらいまでならブーブー文句言いながらもそれなりに楽しく見れるのかなあ(分からん)。悩む。

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そういうわけで、諸々感想。

・完全オリジナルだったら「意外と石田昌也いけるやん」って言ってた可能性が微粒子レベルで存在する。言うほど悪くなかった。ただ、原作読んで期待してたものとは全然違うやつが出てきたので、なんかコレじゃないんだよなぁって評価下がっちゃったところがあるし、あの原作ならもっと面白くできただろ……ってどうしても思っちゃう。ホント、絶対もっと面白くできただろ……

・私が嫌いな石田昌也(社会風刺しちゃうオレカッコイイだろみたいなところ(死ぬほどダサいし面白くない))は、本人比で控えめ(あくまで本人比)。とりあえずホッとした。

・最初から最後までダイジェスト進行で、それ自体はいいんだけど、場面が変わるのがホントに場当たり過ぎて、え、どういうことなの(心象風景なのホントの舞台なの何なのさっきの話はどうなったの)って混乱させられて全然入り込めないんですよね。で、その後に説明台詞で補完されるんだけど、後から説明されても「あ、そう」ってなるじゃないですか。徹頭徹尾その構成なので、盛り下がること甚だしかった。「あ、そういうことね」じゃなくて、「あ、そういうことだったのね(分からないまま終わったじゃん)」みたいな。二回目は分かってるから楽しくなるかもしれないし、知ってるから分かるけど普通は分かんないだろ!!(ちゃんと構成しろ)って余計に発狂するかもしれない。

・盛り上がると思ったフラッシュモブが全然盛り上がらなかった。ていうか、「フラッシュモブ大成功でしたね!」みたいな台詞で分かったけど、なかったら(前の場面で)フラッシュモブやってたってことが分からないレベル。フラッシュモブってこういうのでしたっけ……?あれ……?普通の夏祭りイベントになってたよ……?

・なので、いい役になると思った山田重役が全然いい役じゃなくて、山田重役って役名がついてるだけのモブになってた。残念。輝月ゆうまは可愛い。重役設定も消えてた気がする。

・青柳と美波が「お互い憎からず思ってる」みたいなレベルじゃなくてわりとはっきり恋愛する(あと作中の時間経過がほとんどないように見える)ので、奥さんが二年前に亡くなったっていう設定が最近過ぎる気がした。まだ二年しか経ってないのにアレって、青柳どんだけ手が早いんだ(そういうキャラじゃないじゃん……)

・高野が出て行った直後に「フラッシュモブとかやったらチケット売れますよ!」みたいな話してるのが意味わからなさ過ぎて混乱した。そういう話するタイミングか…? 追いかけようよ。そりゃ高野さんもウィーンに帰るよ。

・踊りまくる暁千星がすごくよかった。意外と蒼太の比重が上がってて、那由多の比重が下がってる印象。月城かなとって踊れる人ではないんだな、ってのは把握した。

・青柳さんも踊りましょうよ!って言われて珠城りょうが上着脱がされてベスト姿になるのが個人的にはハイライトでした。あと、シャツ姿。

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・ピースフルプラネット(不穏)。すごい深読みしなくてもディストピア感溢れる管理社会だわこれって開幕十秒で把握。でもフワッと漂わせるだけに留めてあって、スパイスであり背景のアクセント程度のブラックさ。ちゃんとかっこよくて、楽しくて、ひたすらテンション上がるショーだった。体感時間めちゃくちゃ短い。

・最初から最後までストーリー仕立てなのに、ちゃんと中詰めがあって、ロケットも(ストーリーの一部として)やって、デュエットダンスもパレードさえも話に織り込んでやり切ってしまうという構成が見事の一言。何回も言うけど、ちゃんとショーとしてかっこいいんですよ!

・珠城りょうの短髪いいなあ。これでトートもやろうぜ。

・珠城りょうが美弥るりかを「スイートハート」って呼んだの、「ダーリン」とか「マイハニー」的なやつ(海外でよくある恋人に対する呼びかけ)だと思って死ぬほど興奮した(役名だとは知らなかった)。

・美弥るりかのキャラクタは、ちょっと今までの宝塚にはない感じの珍しいとこついてる気がする。すごく良かった。印象的。いわゆるよくある「オカマキャラ」ではなくて、女言葉は使うけどかっこいい男の人で、女の装い(※)をするとハイパー美女で、珠城りょうの恋人(※女装ではない、と思うんですよね。説明しづらい微妙なニュアンスなんですけど。「今日は女で行くわ」くらいの感じというか)

・輝月ゆうま……!

・「悪いことがしたい/いい人でいたい」みたいな歌詞がわりと好き。結構真理だよなあ、って思った。人間、悪いことはしたいし、いい人でいたい。

・銀橋で膝枕してもらう珠城りょうが最高にかっこいい(あとそこはかとなくエロい)んだけど、この場面、本舞台もかっこいいのでどっち見たらいいのか混乱する(そしてどっちも満足に見れない)。

・デュエットダンスのリフトがなんか変わったタイプのリフトですごくよかった。軽々と回す珠城りょうも、キレイに回される愛希れいかもさすが。

・宇月颯がかっこよくて、暁千星がかわいい。知ってたけど再確認。あと悪になった月城かなとが、フロント企業の社長みたいで素敵だった。

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とりあえず、チケット買い足した。上田久美子の芝居も好きだけど、ショーもまたやって欲しいなあ。上田芝居久美子と上田ショー久美子に分裂してくれないかな……

 

 

雪組東京宝塚劇場公演「ひかりふる路」「SUPER VOYAGER」/4回目

WSSがああいう救いのない悲劇だったので、ショーが妙に楽しかった。「宝塚ってどんな悲劇でも終わった瞬間、ポップな曲でラインダンス始めるじゃんどうなのそれ(雰囲気台無しじゃん)」みたいな意見に、今なら胸を張って言える。それが宝塚のいいところだし、ショーは正義!(「星逢一夜」のあとに、「ラ・エスメラルダ」がなかったら辛過ぎるじゃん……みたいな話です)(ただまあ、雰囲気台無しじゃん、って意見も分かる)。

そういうわけで諸々感想は箇条書きで。

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・恐怖政治の場面に結構大きい変更があってびっくりした。「徳なき恐怖は無力である」が、「徳なき恐怖は忌まわしく」(こっちの方が意味的には通ってる気はする)になって、その手前に台詞が色々追加されてる、のかな(あまり記憶に自信がない)。分かり易くするための説明台詞追加だと思うんだけど、この話って基本的に戦争も内乱もそういう緒問題は全部サイレント処理されちゃうので、変に説明するよりも雰囲気で流している方がよかった気がしなくもない。個人的には望海風斗の「全てだ!」がツボだったので、なくなってて(というか、微妙にやり取りが変わってて)、ちょっぴり残念だった(「全てだ!全てをやるんだ!!」って言った瞬間の、ロベスピエールの中にある天秤みたいなものが、ガン!って振り切れちゃった感が好きです!)(でも東京ではなかった残念)。

・「ダントンとデムーランを処刑しました!(ウキウキ)」って報告するサンジュストが、ロベスピエールの反応を見ている内に、「あれ、もしかして、なんか……間違った……?」って徐々に表情を翳らせるあたりがなんか好き。意外とこの話って、サンジュストがマトモなんですよね。いかにも「狂信者」な役だし(片耳ピアスだし)、銀橋で抱き締めたり、あなたは神だって口走ったり……でヤバイ系って印象が先行するんだけど、実は真面目だしわりとマトモだし真人間といえなくもない(少なくとも、「恐怖政治」にまつわる諸々を正義と心底確信するような狂信者では全然ないし、やってることが「悪」に分類されることだってちゃんと認識してる)。序盤のつくりとか演出を見てると、元々はもっと突き抜けた狂信者になる予定だったのかなあ、って思った(場面場面でサンジュストのキャラが(脚本レベルで)ブレてるのって、そのせいなんじゃないかと)。

フーシェの「お姫様にはナイトが……」が相変わらずツボ。はったり利いてて、めちゃくちゃゲスい(褒めてる)。好きだなあ、真那春人。

・「至高の存在のための祭典を開くのです!」みたいな台詞の後に客席に漂う、「何言い出したんだコイツ」感。史実通りらしいけど、唐突感半端ないのと(私に教養がないので)、「うわあ、いよいよ宗教がかってきたゾ(※)」みたいなドキドキ感にハラハラした。(※ 宗教化(=中心人物の神格化)→教義の厳格化→異教徒の弾圧・教義違いの内紛、っていうルートが簡単に想像できちゃうというか……/革命派が既存の宗教を否定する(ことが多い)のって、革命(反体制組織)そのものに新興宗教的な側面があるからだと思うんですよね)

・で、フランス革命に限らずこういう革命モノって、うまくやらないと、いわゆる「学生運動っぽさ」みたいなのが出ちゃうんだなって思った(この場合の「学生運動っぽさ」っていうのは、安っぽいとか稚拙とかそういうことではなくて、山岳ベース事件的な陰惨さとか集団心理(=総括!とかいってリンチしちゃうノリ)と、カルト宗教化的な部分です)。これは生田大和の脚本に、学生運動に対する思い入れみたいなものがないせいもあるかも。

・祭典の背景のピラミッドがくるりと回転してギロチン(を模した斜めライン)になるところ、皮肉な(革命の理想も理念も裏返せばギロチンでしかない、みたいな)演出で毎回いいなあって思う。

・「人生の喜びを知らないやつが、人に喜びを与えられるわけがない」みたいなダントンの台詞と一連のやり取りがすごく好きで、そのせいで彩風ダントンに甘い自覚アリ。「人を幸せにしようと思うなら、お前がまず幸せにならなければ」っていう彼の言葉は間違いなくロベスピエールの耳に届いたし甘く響いたんだけど、だからこそ、その言葉をロベスピエールは受け入れることができなかった(望海ロベスピエールは心のどこかで、自分への罰を求めてるので)。それを分かってるダントンがそれでも、「お前は幸せになっていいんだ」って振り絞るように言うのが切なかった。

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・通路際の席だったので、オープニングの客席降りですでにウキウキ。手が届きそうな距離で踊ってくれる、なんなら視線もくれる(錯覚じゃない、ハズ)ってことのインパクトたるや!!すごく楽しかった。まあ、ヘタレなので、あまり近過ぎるとどこを見ていいのか分からなくなるし、手を伸ばしてハイタッチしてもらうような積極性も持ち合わせてないんですけど……

・恥ずかしい歌詞には慣れてきた。慣れてきちゃった。

・中詰でせり上がってきた真彩希帆が「はあーい!」って叫んだ瞬間に私のテンションもマックス。

・真彩希帆も望海風斗も歌声が気持ちいい人なので、歌ってくれるだけでわりと満足。中詰せり上がりの歌とか、日記の場面の「天の海に輝く星に憧れて」の「てんの」の箇所とか狂おしいほど好き(望海の「海」は天海祐希の「海」なんだろうか)。あと、ロケットの銀橋デュエットとか、デュエットダンスの歌も好き。ていうか、大体全場面好き。

・野口幸作の選曲センスは全力で支持する。「曲がちょっとなあ」って思う場面が一つもなかった。

・スーツで踊る彩風咲奈がヒョイって、無造作に(でも高々と)足を上げるのが地味にツボ。あの、いかにも「踊れる人!」って感じが好き(ホントに踊れるかどうかは、この際問題じゃない)。

・彩風咲奈って珍しくパステルカラーが似合う男役なんだよなあ、って思うパレード。あの水色の衣装、結構難しい衣装のような気がするのに、めちゃくちゃ似合ってて嬉しい。人畜無害な顔して悪徳の限りを尽くすような役が一回見たいなあ。やってくれないかなあ。

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あとは、千秋楽中継で見納め、の予定。なんだかんだで、4回見れて良かった!

 

宙組東京国際フォーラム公演「WEST SIDE STORY」

夏まで待ち切れなかったのと、梅芸版は配役変わるよなあ、ってことで一念発起して見てきた。花組ポーに予算振り分けなくてもよくなったというのが多少影響してるかも(ポーに狂ってたらこんな余裕はなかったです)。あと、雪組をもう一回(生で)見たかったのも理由といえば理由。ま、東京って案外近いですし……

そういうわけで、わりとノリと勢いだけで行ったので、面白くなかったら(合わなかったら)どうしよう……って一抹の不安がなくもなかったんだけど、結果的にはすごく良かった!行って良かった!!

長いナンバーの繰り返しみたいな構成アンド単純なセットアンド舞台転換という冗長といえなくもない演出なので、序盤はわりと引き気味で見てたんだけど(※)、ダンスパーティーくらいからのめり込んでて、最後は自分でも引くほど泣いてしまった。ヤバかった(※ 喧嘩の場面がややソフト化されてる(?)せいでスピード感に欠けることもあって、序盤は特に、いかにも古いミュージカルだなあ、って印象)。

よくよく考えなくても、こういう「誰かがはっきりと悪いわけではない(この結末を望んでいた人は誰もいない)、にも関わらず、悲劇的な結末に至る話」っていうのにめちゃくちゃ涙腺弱いんですよね。トニーがマリアの死を報された直後から泣きっ放しで、最終的に泣き疲れてしんどかった。フィナーレでもまだ立ち直れなかったくらい。Wで予定組まなくて助かった(ていうか、午後に雪組入れてショー見てテンション上げて帰れる工程組んだ過去の私超有能だわ)。

てことで、諸々適当な感想を箇条書きで。

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・恋に浮かれまくる真風涼帆(違う、トニー)可愛い過ぎるだろ!だけでわりと一幕の感想を言い切った感がなくもない。ドクの店に駆け込んできた時の「聞いて、ドク!」のウキウキっぷりといったら(声が可愛い)。もう少し上、二十代初め〜半ばくらいの年齢設定かと思ってたら、普通に十代の青年で、まさに青春真っ盛りの物語で、真風涼帆は違和感なく若かった(意外とこの人、若ぶれるんだよなあ)。ただまあ、桜木みなとと同世代かというと、桜木みなとがさらに若いだけにちょっと違和感がなくもないんだけど(それは仕方ないですね分かります)。

・全員スニーカーでなおかつ結構激しいダンスが多いので、身長補正ゼロなのかな。さすがの真風涼帆は補正ゼロでも全然小さくなくて、一際映える。かっこよかった。身長は正義。

・真風涼帆って金髪にシャツにデニム、の無造作な服装がめちゃくちゃ似合うんですよね。海外の若手俳優って言われたら信じる勢い。まあ、白シャツの下にババシャツ(しかもグレー)みたいなのを着てガッツリはだけるセンスはどうかな……?と思わなくはないんですけど(←白シャツデニムでデュエットダンス踊る場面/ぶっちゃけダサい)(とはいえ、悪いのは演出家か衣装担当であって、真風涼帆は何も悪くない)。

・予想(期待)通り、和希そらのアニータがめちゃくちゃいい女だった。「この女が選ぶ男はさぞかしいい男だろうな」って自然と思わせるような、粋でかっこいい、イイ女。もちろん美人でナイスバディでセックスアピールもあるんだけど、彼女の一番の魅力は顔とか身体以外のところにあって、ベルナルドもちゃんとそれが分かってる感じ。アニータを選んだ(アニータに選ばれた)ってだけで、ベルナルドの男ぶりがストップ高ですよ(元々かっこいいのに!大変!!)

・アニータのどこが男前って、二幕のトニーとマリアの初夜(!)の翌日に踏み込んだ場面。あの状況でマリアを責めないのは格好良過ぎでしょ……(アニータがこの作品で一番男気ある人物なのでは……?)。あと、チノを探すトニーの前にマリアが現れた時、彼女がすでにアニータの嘘を知ってるように見えるんですよね。アニータは嘘をついたけど(でもってあの嘘をつく気持ちは死ぬほど理解できちゃうんだけど)、帰ってからすぐにマリアに打ち明けたんだと思うと、より一層泣けて仕方がなかった(嘘をつくことになった原因の出来事(※)については絶対言わなかったと思うのでなおさら)。(※ すごくソフトに演出されてたせいで見る人によって解釈が分かれそうだけど、個人的には「ドクは間に合わなかった」と思ってます)

・マリアはわりと記号的なヒロインで、星風まどかはその記号的なところを完璧にこなしてるなあ、ていうのが第一印象。とはいえ、悲劇の連鎖の最初の一押しって、マリアじゃない? 決闘やめろなんて言わなきゃ良かったのに……(ストレス発散のためにやらしときゃいいのよ男ってバカね、っていうアニータがどこまでも正しい)ってあたり、結構難しい役のような気がしなくもない。最後の場面がすごく良かった。「触らないで!」に泣けた。しかし、「チノには何も感じないもの!」とか、マリアって結構辛辣なんだよなあ。

・真風涼帆と星風まどかの並びってどうなの?(犯罪じゃない?)とかって思ってたら、悪くなかった。真風涼帆が若く作ってるのもあって、ちゃんとお似合い! 可愛い二人。意外とロミジュリの方がハマったんじゃないの、って思った。

・男役は黒塗りすると戦闘力が三割増、っていう持論のせいか、終始ジェッツよりシャークスの方が強そうに見えて困った(但しこの力関係はトニーの加入でひっくり返る)。ジェッツに武闘派があんまりいない(ように見える)からかなあ。風馬翔はどちらかというと「気の優しい力持ち」感がある人だし。瑠風輝もキレたらヤバイ系には見えないし。星吹彩翔も明らかに武闘派じゃないし。あれ?宙組って意外と荒んでる系とか強面がいない……?

・そんな中、桜木みなとはわりとキレたらヤバイ系ができる人(私見)なので、リフという役はぴったりだった。若く見えるけど、でも実際若い役だし。周りも若いから似合ってる。ただこういう衣装だと身長補正できないのがツラいなあ、とは多少思った。大きさって絶対じゃないけど、手っ取り早く強く見せたいときには正義なんですよね……でも、それでもちゃんと、真風トニー/芹香ベルナルドと対等に見えたから良かった。

・あと、ベルナルドの男ぶりを上げるのがアニータなら、桜木リフの男ぶりを上げるのは綾瀬あきな!これまた、勝ち気でキュートで一歩も退かないイイ女。ダンスパーティーの水玉ドレスが素敵。アニータ率いる「アメリカ」みたいなナンバーが、ジェッツガールズにも欲しかったなあ。ちょっとでいいから。

・二幕の序盤、ベルナルドとリフの死を受け止め切れていない(妙に軽々しい)ジェッツがすごく座りが悪く思えたんだけど、意外とリアルなのかなあ、という気もする(そういう意味では、チノはジェッツの構成員たちよりも大人だった、のかな/なんとなく納得感はある)。

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・組長は喋ると人が良さそうな地がちょっと覗いちゃうあたり、クズ警官役としてはどうだろう……? 梅芸版は叶うなら、凛城きらあたりで見てみたいかも。

・フェンス越えがかっこよかった。ちょっとやってみたくなりますね(できるとは言ってない)。トニーは普通に登って越えるので、トニーさんはできないのかしらん?、とかって思ってたら、帰りはちゃんとやってた。行きもやればいいのに。

・オープニングでジェッツのメンバーがリンチに合う場面の、チアみたいなリフト(っていうのかな)。あれがめちゃくちゃかっこよかった。待ち上げられたトニーとマリアが倒れ込む(のを周りが受け止める)ところも良かった。

・ジェッツの「俺たちがぐれたのは半分くらいは社会のせい」みたいなナンバー(!)で、ソーシャルワーカーになりきってスカーフ被ってた男役の名前が知りたい。ちょっと凛城きらみたいに見えたけど、凛城きらは不滅に出てたから違う。誰!?

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そんなこんなでとてもよかった。夏はチケット頑張って通いたいなあ(でも朝夏まなとマイ・フェア・レディと被るんだよなあ)。

 

雪組ドラマシティ公演「ドン・ジュアン」/CS

ざっくり言うと、「愛というものを理解できなかった男が、愛を知ってしまった故に死ぬしかなかった話」……なのかなあ。面白かったし、いい作品だったんだけど、誰かドン・ジュアンに死ぬ以外の方法を教えてやってくれよ……って思っちゃったら、妙にやるせなかった。

確かにドン・ジュアンは他人の心を慮るということを知らない人で、自分の欲望に正直で、そのために周囲を傷つけることを厭わない最低の人間なんだけど、でもそれを心底悪いことだと理解してやっているわけではなくて、「悪いことだとは真に理解できなかった」人じゃないですか。やってることは控えめにいっても非道なんだけど、彼にはそれが「悪」であるということが分からなかった。「周囲の人間にどうして憎まれるのか/彼らが傷つくのか」が理解できなかった。少なくとも最初の内は。「愛」を知らない(理解できない)ことは別に彼の罪ではないし、(ドン・ジュアン自身の視点だと)悪いことなんてそんなにしてないのでは……?って思っちゃったんですよね。

もちろん、「こういうことするとどうも、周囲は嫌がるな(ひいては自分も憎まれて損だな)」って気付いてもうちょっと上手く(小器用に)立ち回る生き方もあったと思うんだけど(でも幸か不幸か、ドン・ジュアンはそういう人間じゃなかった、んですよね。彼には、憎まれても憎み返す強さがあって、憎まれないように周囲に迎合しようって保身を考えるような弱さがなかった。良くも悪くも、「”愛”なんて知ったことか」と言い捨てる激しさがあった)。

自分には理解できない評価軸(この場合「愛」)でもって自分に最低評価を押し付けてくる環境で生きるのなんて辛いばかりで、歪むに決まってるじゃないですか。それがドン・ジュアンの落ち度だとは思えないし、誰もが崇めるもの(=愛)を理解することができず(そしてそのことを「最低」だと評されたら)、じゃあその「愛なるもの」を徹底的に貶めてやろう、と思うのは(よほどの聖人でもなければ)当然の心理のような気がするんですよね。理解できない(だから得られるはずもない)のに、「愛がなければ人生に意味はない」って言われちゃったら、全身全霊で憎むしかない。「愛を理解できない」(そう生まれついた)ことが全ての元凶で最大の不幸なんだけど、ドン・ジュアン自身が同情されることを全く望んでいないので、どうしようもなく切なかった。

そういうわけで、わりと最初から最後までドン・ジュアンに肩入れして見ていたせいで、盛大に視点が歪んでるような気がします。

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残りの感想は以下、箇条書きにて。

・曲がどれも素敵でよかった。ちょっと歌い過ぎてるのと一曲が長いのとで間延びするところもなくはないんだけど、望海風斗が歌っている部分に関して間延び感を全く感じなかったので、歌に力があるのってホント武器だなあ、と。ちょっと贔屓目入ってる可能性は否定できないんですけど(ちょっとだけ!)。

・結構好きってデムーラン夫人で思ったところだったので、ヒロインが彩みちるで嬉しかった。マリアはまさにドン・ジュアンにとってのファム・ファタールそのもの。運命の恋の相手であり、破滅をもたらす女性であり、呪いであり、呪いからの解放でもある。きれいで、凛々しくて、真っ直ぐに育ったような、清潔な魅力のある人なので、ドン・ジュアンが愛を知る相手にぴったりだった。あと、可憐に見えて一瞬で彫像を破壊する豪腕の持ち主(わあ!ギャップ萌え!!(違う))。

・永久輝せあが輝くような美青年で、なおかつ超自然に無自覚に無神経(だけどちゃんとかっこいい)。そこらへんの演技が妙に上手くてびびった。「結婚したら彫刻なんて仕事は当然辞めてくれるね?」のくだりだけで、(ドン・ジュアンと違って一応貞操観念も常識もありそうな)マリアがあっさり恋に落ちた/衝動に身を任せたことが納得できた。だって、「それだけ愛されてるってことじゃない!」「幸せなことよ!」とか何とか言われている時のマリアって、明らかに「外堀を埋められてること」に絶望感じてるじゃないですか。無事に結婚してたとしても、マリアが幸せになる未来がさっぱり見えなかった。

・有沙瞳のエルヴィラがめちゃくちゃ怖かった。なんでまたドン・ジュアンはこんなあからさまに面倒そうな女に手を出したのか……(保身なんてものを一切考えない男だからですね分かります)(ホントに己の欲望に正直だな)。こっちの想像以上の速度でガンガン闇落ちしていくので(そして色々上手いので)、可哀相と思うよりもひたすら怖かった。

・彩風咲奈のドン・カルロは、善人ゆえに絶対にドン・ジュアンを理解できない人なので、まあ、なんというか「いい人の役」そのもので、彩風咲奈に興味がない人だと印象薄いだけで終わっちゃうような気がしなくはないんだけど、彩風咲奈が大好きな私としてはとにかく楽しかった。絶望的なまでに、ドン・ジュアンを理解していない(できない)っていうのが何をしててもビンビンに伝わってきて、それが面白くて堪らなかった。いやあ、不幸な友人関係だなあ(というか、友人でさえない、というべきか)。あと、良くも悪くも平凡な善人なんだけど、ドン・ジュアンとエルヴィラに惹かれている(見捨てられない)あたり、一皮剥いたら色々ヤバイ闇抱えてそうで気になった(邪推です)。

・あと騎士団長の亡霊が印象的かつめちゃくちゃかっこよかったんだけど、ちょっと解釈に迷ったところでもあって、「ドン・ジュアンの良心(の発露)」っていうのが素直な受け取り方なのかなあと思いつつ、個人的には、「ドン・ジュアンが自らに与えた(愛を求めるための)免罪符」と解釈したい。つまり、「愛を知らなくても、自分は別に不幸ではない」というのがドン・ジュアンの矜持で、だから彼は自分の存在意義に賭けて「不幸だと思われる」ことが我慢ならないし、「自分に愛など必要ない(愛なんて下らない)」って自分を縛って絶対に自分から愛を求めようとはしてこなかったんだけど、本人も意識していないところで周囲が有難がる「愛なるもの」への興味はあって、それを求める(得る)ための自分への言い訳(赦し)が騎士団長の亡霊であり、騎士団長の呪いなんじゃないかなあ、と。まあ、それで本当に、「愛」を得て(知って)しまったあたりがドン・ジュアンの引きの強さというか悲劇というか……なんですけど。

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・美穂圭子と舞咲りんがガンガン歌ってくれて、めちゃくちゃ気持ちが良かった。戦闘モード入ったこの二人を侍らして全然押し負けてない望海風斗はすごいと思う。

・あと、美女といえば、アンダルシアの美女。肉を極限まで削ぎ落としたようなお腹が、細いのに全く貧相ではなくて、牝豹!って感じの野性味に溢れてて、最高に格好よかった。いいものを見た。鍛え上げられた身体を見るのって純粋に楽しいので、下品にならない(痛々しくない)程度にこういう衣装がもっと見たい。

・衣装がどれも素敵で良かった。宝塚なのにほとんど着替えてないという珍しい公演(のような気がする)。

・オープニングの薔薇のインパクトが凄かった。あれは生で見たかったなあ。ていうか、なんでこの公演を見に行かなかったんだ私は…って盛大に後悔した。