タカラヅカメモ

全組観劇のライトファンによる宝塚感想置き場。

宙組大劇場公演「神々の土地」「クラシカルビジュー」/1回目

(S席1階21列サブセンター上手側)

明るい話ではないし、かといって星逢みたいに泣かせに来ている話でもないので好き好きあるとは思うけれど、個人的には上田久美子作品の中で一二を争うくらいに好き(翼ある≒神々>星逢>金色>月雲)。

脚本もいいし、演出もいいし、衣装も美しいし、セットも綺麗。曲だけ少し惜しい(でも悪くない)。朝夏まなとのサヨナラにいい作品が当たったことが、素直に嬉しい。ショーは初見の感触だとちょっと不発なんだけど、芝居だけで通えるし通う気満々。

上田久美子って毎回思うけど、わりとチャチになりがちなコスプレ時代物でも、安っぽくなくて品があって美しいのが凄い(完全フィクションの金色の砂漠でさえ、そうだった)。

神々の土地も、史実を元にキレイに再構成(単純化)した話なので、安っぽかったら致命的なんだけど、ちゃんと重厚感があってリアルで、でも品があって夢のように美しい。あと、伶美うららの使い方が完璧。まあ「翼ある人びと」と同じ路線ではあるんだけど、これだけ美しかったらやらせたいですよね分かります。当然支持します。

けして明るい話ではないんだけど、イリナとドミトリーこの二人に後悔がないので、後味が悪くない。清々しくて、爽快感さえある。「自らの信念に従って生きよう」という言葉通り、信念に生きて、信念に殉じる。そこに後悔はないし、お互いに「相手はそうするだろう」という理解と信頼がある。
ペルシャに赴くドミトリーをイリナは引き止めないし、イリナが引き止めないことをドミトリーは知っている。亡命を拒んでロマノフに殉じたイリナの死を、彼女の信念を、ドミトリーは完全に理解してるんですよ。

最後、朝夏まなとのモノローグで語られる彼女の死が、「彼女がそうすることを僕は知っていた」と言わんばかりでグッと来ました。でも朝夏ドミトリーは「そんなイリナだから愛している」というわけではなくて、「イリナは当然そうするだろう」(そしてそのこととは全然無関係に)「僕はイリナを愛している」なんですよ。ちょっと最高過ぎない?

逆に胸が苦しくなるのは、オリガと皇后アレキサンドラ。
結局この話って、悪い人がいない(時代の流れだからどうしようもない)(ラスプーチンでさえ”悪”ではない)お話なんだけど、ロマノフの滅亡を消極的に後押ししたのはこの二人じゃないですか(いや、一番はニコライ二世なんだけど、作中でそこまで書き込まれないので)(ニコライ二世の長台詞は彼がいい父親であると示すと同時に、どうしようもなく為政者に向いていないということが明らかで、これはこれで辛い)。

最悪の結末を予感しながら母に殉じたオリガの決意と、「こんな国など滅べばいい」というところまで振り切れることもできなかった皇后の心境を思うと、やたらと辛かった。知ってて諦めたオリガはともかく、理解さえしていなかった皇后は特に。

あと、真風フェリックスはこのあたりを冷笑的に見ている感があって非常に素敵。
いい人ではないし、いい人になり過ぎないだけの毒がちゃんとある。自分なりの貴族の義務を心得た人物で、だからこそ、皇族の義務を(どういうかたちでも)果たそうとしない皇帝一家を心底見下している。

オリガのこと嫌ってるのは恋敵だからでは全然なくて、そもそも恋敵として認めてさえなくて。ぶっちゃけオリガとドミトリーが結婚しても、恋愛的な意味では何の痛痒も感じないんじゃないの?って気がする(オリガの人格を認めてないから)(恋人がペットを可愛がっても嫉妬はしないでしょ、みたいな)(我ながらひどいな)。
オリガは勿論、素敵な女の子でドミトリーの愛に足る女性なんだけど、フェリックスの主観的には……という話。

でもドミトリーとイリナはそうではないし、そうではないことをフェリックスは知っているので、オリガとの婚約にあれだけ拒否感を示すんじゃないかなあ。そこにあるのは、「お前ほどの男が、あんなつまらない女に操立てして生きていくのか!?」っていう怒り(※)なんですよ。もちろん、「もっと明確かつ直接的に皇帝の首を挿げ替えたい」「平和的解決方法に価値を認めていない」っていう政治的な意図も混じっているとは思うけども。

(※…これは同時に、「あの一家に忠義立てして生きていくのか!?」っていう怒りでもあって、フェリックスはドミトリーが(フェリックスの主観的に)ドミトリーに値しないくだらない存在に浪費されるのが耐え難いんですよね。ドミトリー(イリナ)の愛し方とフェリックスの愛し方って多分正反対で、余計にフェリックスは「自分が言わなきゃ」ってなるんだと思う)

フェリックスにとってイリナという女性は、「ドミトリーの愛に値する女」だし、もっというなら「ドミトリーを愛しても許せる女」で、「俺のドミトリーが愛した素晴らしい女性」なんだと思う。だから、「嫉妬した?」に「どっちに?」って答える。そりゃ求婚するよね。「愛する男が愛する女」を手に入れたい、というのは、フェリックスみたいな人間にとっては至極自然な発想だもん。そうしても、ドミトリーは手に入らないぞ、とは思うけど(そこは多分、フェリックスも理解してる)。

フェリックスのドミトリーに対する感情は、「目的を達成する過程で手に入れられたらいいくらいの感じ」とプログラムにあって、それはフェリックスというキャラクタ的に納得できるんだけど、土曜見た限りではもう少し熱があったような気がしなくもなかったので、色々妄想できて面白かった。
もしかすると、「俺が愛するドミトリーは、けしてフェリックス・ユスポフという人間を愛したりはしない」くらいの自虐的な愛だったりするのかも……とか思ったりもする。

あ、基本的に「フェリックスとドミトリーに明確な同性愛関係はない」ていう前提で見てます。史実はガッツリできてるけど、この作品ではあくまでフェリックスの一方的な愛情(ドミトリーは友情)。

そういうわけで、トップコンビ+二番手でこれだけ妄想できる作品が傑作じゃなかったら何なの。何回見たら、お腹いっぱいになれるの。飽きる気がしない。ヤバイまた東京飛んじゃう貯金減っちゃう……ていうのが、初見の総括です。あと3枚しかチケット確保してないんですけどね。

どうしよう(ホントにどうしよう)。