タカラヅカメモ

全組観劇のライトファンによる宝塚感想置き場。

宙組東京宝塚劇場公演「神々の土地」「クラシカルビジュー」/10回目

宝塚との一番違いはイリナ。明るくなってるというか、若くなっているというか、とにかくちょっとだけ口調が強くなってるような気がする(※)。ドミトリーの「バカなことをした」とかフェリックスの「おはよう、お二人さん」とか、宝塚の公演中に変わった台詞回しは基本的に変化後のまま。特別大きい演出の違いはなし……かな?(あんまり自分の記憶が信用できない)。ドミトリーが最後にイリナに会いに来る場面で、入ってきた扉がすぐに閉まらない(というかその場面が終わるまで開いたままで光が差し込んでいる)のは、宝塚とは違うような気がしなくもない。

(※ そのせいもあってか、最初のイリナとフェリックスの銀橋の会話がこれまで史上最高に刺々しかった。「ドミトリーに手を出しやがったら承知しないわよ」感をバリバリ感じた(邪推です)。この二人、見る度に印象が違うので、「フェリックスは果たしてイリナのことをどう思ってるのか問題」に答えが出そうにない)

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「ドミトリーが生きているなら、彼女に会わせてやりたかった/だから、自分のコレクションを投げ打ってでもイリナを助けようとした(けど、ダメだった)」っていうくだりで、「フェリックスってやっぱりドミトリーが最優先の人なんだな」って妙に実感した。

単に、イリナは「助かることなんて少しも望んでない(むしろロシアとともに死にたい)人」なので、それを理解した上でイリナを助けようとするフェリックスに、「ドミトリーのために、彼女には生きていてもらわなきゃ困る!イリナの気持ちなんか知ったことか!!」的な身勝手さを感じたっていうだけなんだけど(もちろん「イリナを死なせたくない」、っていう単純かつ明快な理由もちょっとくらいはあるとは思う。でもそう思ってるってことをフェリックス本人は認めたくないだろうし、絶対に認めないと思う)。

で、「ドミトリーのためならイリナの信念は無視できるのか(フェリックスのドミトリー愛重過ぎでは)」ってことがすごく面白かった(フェリックスが自分を助けるために奮闘していることをイリナが知ってたら、「私はそんなことを望んでないわ」って淡々と窘めつつ、最後には「バカね」って笑ったと思うんですよね(「ホント、恋する男ってバカね」っていう文脈で))

イリナは、「最後までロマノフであること/ロシアに殉じること」を心から望んでいる人で、ドミトリーはそれを理解しているからこそ、イリナに亡命を勧めることも、「生きていて欲しい」と口にすることもなかった(あるいはできなかった)んだけど、そこで(ちゃんと空気は読めるのに、その空気を無視して)、「でも君はイリナに死んで欲しくないだろう? 生きていてくれたら嬉しいんだろう!?」って言い放てる(しかも行動にも出てしまえる)のが、良くも悪くもフェリックスの強さだよなあ、と。

真風涼帆のフェリックスって作中ですごくスノッブに(あるいは露悪的に)振舞ってることもあって、全然「由緒正しい貴族」に見えないんですよね。どっちかっていうと、金だけは唸るほどある(歴史と格はない)ような新興貴族に見えて仕方がない(まあ、それにしては品がありすぎるんだけど)。

ジナイーダがああいう人なので、フェリックスも最初は享楽的な印象を抱いたんだけど、むしろ徹底した現実主義者であり合理主義者なのかなって最終的には思った。多分このフェリックスには女装趣味はないし、ドラッグに溺れたりもしない。史実では亡命したアメリカで「起こす事業起こす事業全部失敗した」っていう素敵なエピソードがあるらしいけれど、真風フェリックスは普通に成功させるようにしか見えなかった。「彼のように有能な人間を」ってドミトリーが言うのは別に親友の贔屓目とかじゃなくて、客観的事実なのです(でもユスポフくんモードを見てると、そうでもないような気がしてくる不思議)。

「あなたが彼にこだわるのは何故!?」ってイリナに言われて、「分かってるでしょう?」みたいな顔をするのが最高にフェリックスだし、「ドミトリーの婿入りなんぞ僕は絶対に認めない……!」って吐き捨てるのが最高にユスポフくん。自分でも意味不明だけど、どっちも大好きです。あと、皇后とその子供たちが向ける絶対零度の視線を完全に黙殺して、何の痛痒も感じてない姿に毎回ゾクゾクする(フェリックスって自分が価値を認めてない相手には驚くほど冷淡な態度を取りますよね/それが素敵だなあと思っていつも見てる)。

真風涼帆ってヒドイ男を演っても、どことなく柔らかい持ち味が当たりを和らげるようなところがあるので、とことん人格的には壊れてる(だけど主役)みたいな役が一度見てみたいです(結果的に人格が破綻している役じゃなくて、脚本でちゃんと意図して壊れてるやつ)。

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「イリナがロシアとともに死ぬことをドミトリーは分かっている」だけど「そういうイリナだから好き、というわけではない」、という初見の解釈は最後まで変わらなかったんだけど、イリナの信念(頑なに皇族の義務を果たそうとする姿勢)についてはちょっと印象が変わった。完全にポジティブなものではなくて、どちらかというとイリナを縛る「呪縛」に近いのかも、と(でもそれをイリナは受け入れているので、完全にネガティブかというとそうでもないような気がする)。

イリナがずっとまとっている悲愴感とか、「あなたはロマノフの一員としてとても立派にやってるわ」っていうジナイーダの台詞の揶揄するようなニュアンスっていうのは、「誰よりもロマノフであろうとしている」イリナの姿の痛々しさゆえなんじゃないかなあってちょっと思った。イリナ本人はそれを苦にしていないので不幸という話ではないんだけど。

あと、ドミトリーがラスプーチンの暗殺に積極的になってるというか、「暗殺っていう手段を取った時点で敗北だわ」みたいな顔を見せなくなってる気がする。「君はその目で見ているじゃないか!」で、ギョッとするほど前向きな目をしていて、大分印象変わった(良かったねユスポフくん……)

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ショーは……キンキラキンの男役総踊りのところで朝夏まなとのバチコン☆ウインクもらって(気のせい)、それだけでもう満足モード。リフトはやらしい振りのままだったし、サファイアの場面はやっぱり真風涼帆が足上げる振りに変わってた。もうこれで確定なのかな? 最初は微妙とか思ったけど、10回見て飽きなかったのでクラシカルビジューはいいショーなんだと思う。東京まで来て良かった。

飛行機が無事(!)欠航になったので新幹線で帰ります……(なお、日付変更線との帰宅競争に完敗した模様)