タカラヅカメモ

全組観劇のライトファンによる宝塚感想置き場。

雪組大劇場公演「凱旋門」「Gato Bonito!!」

柴田脚本が好きじゃないので、「望海風斗だしとりあえず一回だけ見とくか」みたいなノリ(※)で見にいったら、意外なことに悪くなかった。びっくりした(※ 再演されるくらいだから名作なんだよね、とは思わないぞ騙されないぞ「バレンシアの熱い花」の悲劇を覚えてるからな、っていう感じのノリ)。

とはいえ、柴田脚本の常として、説明台詞(心の声)過多だし全然ショーアップされてないし分かり易かったら負けだと思ってる、みたいに変にこじれさせた恋愛の話だしキャラクタ的な魅力があるかっていうとあんまりないんだけど。でも意外と嫌いな話じゃなかった。面白かった。謝珠栄演出が好きだから……っていうのは多少影響あるかも(柴田&謝珠栄だと、「黒い瞳」も好き)。

ただまあ、轟悠の声が盛大にヤバかった(※)のと、望海風斗がすごくうまい人(=好き嫌いとか役作りの是非とかハマるハマらない的なことを抜きにすると、技術的にはほぼ欠点のない人だと私は思ってる)ってこともあって、なんでこれを轟悠主演でやったかなあ、とは思った。はっきり言って、素人目には望海風斗の方が「上手い」ように見えちゃうんですよね。これなら普通に望海風斗主演で、ラヴィック望海風斗/ジョアン真彩希帆/ボリス彩風咲奈(※)でよかったんじゃないの……って思っちゃったり(※なお、万が一そうなった場合、彩風咲奈には死ぬ気でがんばってもらうものとする)。

(※ 昔、月組スカピンで龍真咲ショーヴランの声が死んでた時以来くらいのレベルで、手に汗握ってハラハラしたし、見ていてしんどかった。台詞もかなりアレなんだけど、歌の高音部(特に「パララ」って歌う曲)が相当ヤバかった。タカラヅカスペシャルの時も大分キテたけど、あれよりも歌によってはダメなくらい。これがネックで二回目行くかめちゃくちゃ悩んでる)

てことで以下、適当な感想。

------

轟悠が演ってるので、イマイチ設定年齢が分かり難い感あり(実年齢が云々っていうより、どちらかというと声と芸風的な問題かな……)。ラヴィックが三十前後~半ばで、ジョアンが二十代半ばくらい? 落ち着いた男性が覗かせる「年相応に若い部分」が、「年不相応に若い(幼い)部分」に見えちゃう瞬間があるのが、ちょっとネックだった気がする。あと、見ている内に段々設定年齢が(思ってたより)若いってことが分かってくるんだけど、最初の印象がガッツリ「年配」なので、ジョアンとの出会い~恋愛初期がちょっと行き過ぎた年の差カップルに見えちゃうのも問題といえば問題(犯罪臭がする的な意味で)。真彩希帆がまた宝塚の娘役としては珍しく、若く見えるタイプの人だから余計に。でも意外と、望海風斗と「友人」やってるのは違和感なかった。不思議。

・望海風斗がわりと自覚して「クズ」をやってる(=露悪的なだけで、全然クズじゃない)、みたいなキャラで、終始素敵だった。「あいつはロマンティストだから」ってラヴィックを評する辺りに、ラヴィックの「甘さ」を心配する色が滲んでいるのがすごくいい友情。ボリスは、「恋愛なんて贅沢は、亡命者という日陰者には身に余る」っていう冷徹な判断が下せて、なおかつちゃんとその判断に従うことのできる賢さのある人、という印象(でもって、その賢さを本人は評価してないっぽいのが個人的にはツボ)。

・ポスターがわりとアレだったし、ずっとオッサンオールバックなんだけど、ちゃんとかっこよくてビジュアルが良かったので、最近望海風斗ファンの自覚が芽生えつつある身としては嬉しかった(贔屓目入っているのは認める)。台詞がいちいちかっこいい。

轟悠の声がヤバかったこともあって、望海風斗(と真彩希帆)が歌う時の安心感、半端ない。

ジョアンはもう少し典型的なファム・ファタル的な役どころかと思っていたんだけど、意外と直接的に魅力が描かれない(魅力が分かり難い)ヒロイン、という印象(柴田脚本の通常運行といえなくもない)。だけど、その難易度高めなヒロインを真彩希帆がすごくうまくやってて、嬉しかった。真彩希帆って、いかにも「美女!」って人では全然ないんだけど、声がキレイだからヒロイン感充分。今回、特にジョアンという役に合ってた気がする。

・「俗っぽいでしょ/そういう俗っぽい幸せが欲しいの」って語る彼女の横顔に、何もかも我慢しなければならない時代に生きていることの鬱屈の影がちらついてて、「そうだよね/誰だって美味しいものを食べて/キレイな服を着て/我慢なんかせずに毎日楽しく暮らしたいよね/愛があればお金なんて、とはとてもいえないよね(そう言えるほど強くも幼くもないよね)」ってめっちゃ共感したし、そういうある意味正直で悪びれないところがジョアンの魅力なんだ、って納得できた(※)。ラヴィックも彼女のそういうところが可愛かったんじゃないかなあ。三ヶ月連絡なかっただけでもう別の男かよ!って思わなかったのが、自分でも意外だった。

(※「欲望に忠実」で、なおかつそれが魅力的な女性というべきか)

・あとは……アンリ。彩風咲奈で待望のヤンデレじゃん!よっしゃ!!、って、途中(アンリのヤンデレ感を察した辺り)からめちゃくちゃワクワクしてたんだけど、一番見せ場であるべき場面(※)で、「狂気」よりも「情けなさ」が先行しちゃってたのがすごく残念だった。アンリって、お金も地位も美貌も持ち合わせた、いいところのお坊ちゃまから迸る狂気!が何より重要な役じゃないですか(多分)。「情けなさ」が先行した結果、単純に「自分を裏切った女に手を出したかっこ悪い男」になってて結構凹んだ。彩風咲奈のヤンデレが見たい一心で解釈が歪んでるような気はする(え、でもそういう役だよね……)。

(※ アンリはこの場面一発勝負みたいな役なので、ここで印象が残せないとあんまり大した役じゃないのである……)

・美穂圭子さんの無駄遣いをちょっと感じた。

------

・ラヴィックとジョアンのウキウキデートの場面を覗けばほとんど全場面照明は薄暗いし、ひたすらに辛気臭い話なので、好みは分かれそう。上田久美子の辛気臭い感じが好きな人は結構好きだと思う(偏見)。ショーアップする気のなさが上田久美子以上なので、そこが気になる人は多分ダメだし、ダンスが凝ってて、なおかつ雰囲気タップリに多用されるので、そういうのが好きな人にはオススメ。オープニングからの流れとか、忍び寄るナチスの影とか、振付がめちゃくちゃかっこいい(ただ、全部を台無しをする勢いでガンガン説明ナレーションが入る(憤怒)/柴田脚本のダメなとこって、そういうとこじゃないですかね……)。

・あとセットの出来がめちゃくちゃ良かった。二つの建物がぐるぐる盆で回って、その間を路地に見立てたり、オープンカフェにしたり……質感もいいし、使われ方も素敵だし、一本物くらいのクオリティを感じる。幕開き(開演前のセット)も素敵。セット萌えの人にはおススメできる(あとはセットが映える、いかにもミュージカル!な場面が一つでもあったら完璧だった)。

------

・ショーは客席が異様に熱くてビックリした。ガンガン手拍子が鳴って、歌を掻き消す勢い(でもってそれにテンション高く立ち向かう雪組)。ひたすらに暑苦しい。常にハイテンションなので見ていて疲れるショーではあるんだけど、芝居が結構辛気臭いので、このくらい賑やかなくらいで逆に良かったような気はする。楽しかった。

・望海風斗ってあんまりそういうイメージなかったんだけど、もしかしてショースターなんだろうか……、ってちょっと思った。力尽くで無理やりテンションに巻き込んでくる、みたいなはた迷惑なパワーがある辺り。贔屓目入ってる自覚はある。

・タンゴが好きなので、タンゴ風に踊る場面がどれも良かった。

・それを抜きにしても、「黒猫のタンゴ」の場面は比較的落ち着いた雰囲気で、客席に絡む望海風斗が可愛くて、お気に入り。「どうも、ガートボニートです…」でドッと笑った客席は多分、「ヒロシです…」を連想したんだと思う(私は連想した)。

・「今日は何の日か知っていますか?/父の日です/父の日って何をあげればいいの??/何をもらったら嬉しいの?!」みたいなアドリブだったと思う(八割くらい嘘のあやしい記憶)(後半は忘れた)。父の日だったせいか、妙に男性客の多い公演でした。

・あと、彩風咲奈的には開幕の銀橋がハイライトですので、ファンの皆様方はお見逃しなきよう……(私は出てくるところを見逃してめちゃくちゃ後悔してます)。あと、ロケットボーイ(っていうの?)も可愛かった。女装はいつもの藤井大介だなあ(ノルマでもあるのかっていうくらい毎回女装ブチ込んでくるよね)、って思った。彩風咲奈レベルになると、スタイルが凄過ぎて逆に怖い。

------

そういうわけで、轟悠の声が復調してたら、後半くらいにもう一回見に行きたい(チケットが手に入るかどうかは謎)。