タカラヅカメモ

全組観劇のライトファンによる宝塚感想置き場。

月組大劇場公演「エリザベート」/1・2回目

ルドルフ役替りを両方見れたのでウキウキ。なんだかんだいって、 やっぱりエリザベートはいいなあ、って思った。良かった。心配していた珠城トートのビジュアルも良かったし(カツラチョイスの勝利)、暁千星ルドルフはちゃんと儚かったし。美弥フランツの歌が やや不安定だったのが意外だったくらい(真風さんが上手くやったので、ちょっと油断してた)。

てことで、諸々感想をテキトーに。

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・珠城トートのビジュアルが予想外に完璧で、めちゃくちゃかっこよかったしハマってたんだけど、じゃあトートという役にハマっているかというとあまりハマってない。多分、声のせい。 珠城りょうって歌声が「明るい」人なんだなあ、ってのを今回実感した。とにかく声に「陰」がない。 明るくて誠実で健全。夏の空のように晴れやか。だから歌うとやっぱりトートとしては違和感が拭い切れない(※)。これは私のファ ーストトートが彩輝直ってのも多少影響してるかも(彩輝直は、 よくも悪くも癖のある声がトートにピッタリだった)。

(※ これを逆手に取って、あくまで誠実に、善良な顔で忍び寄る「死」 ってのはアリだし、ある意味オーソドックスに演るよりタチが悪くて面白い気もするんだけど、 珠城りょうの役作りの方向性は当然そこにない(そんな変化球投げてない)ので、歌声で損してるなあって印象。個人的には、「 善良そのもののようなトート(死)」がちょっと見てみたかったので残念(その方向性で演るなら、珠城りょう以上の人はいないと思う))

・美弥るりかのフランツはわりとオーソドックス。正統派だと思った。ただ、憧花ゆりのがかなり特徴的なゾフィ(=王家に全てを捧げてはいるが、「私情」を捨ててはいない/むしろ巧みに「 王家の利益」と「自分の利益」を摺り合わせてる/100パーセント「皇后の務め」に忠実というわけではない、そういうゾフィ) を打ち出している関係で、フランツがわりとはっきりとエリザベートの「敵」になってる印象( 最初からゾフィとシシィが敵対している(=ゾフィは「 自分の計画」を乱したシシィに感情的な敵意を向けていて、なおかつその敵意にシシィが気付いている)ので、「「ゾフィを否定しない」フランツ」=「シシィの敵」ってことがいつも以上に明確)。 その辺りが損な役回りだと思ったところ。

・でもって、ゾフィ(とフランツ)が「悪役」に寄せてる分だけエリザベートの印象が良くなってて、それがちょっと面白かった。「 エリザベート」って大体、「こいつ身勝手な女だな(ぷんぷん)」 って思いながらシシィを見るのがデフォルトなんだけど、今回に限 っていうと、「十五歳くらいの若い娘が、この姑(と姑の肩を持つ夫)に絶望するのは仕方がないわ」って思えて、自然に感情移入できた気がする。「パパみたいに」の愛希シシィが幼く見えたのも多少影響してるかなあ。

・ヴィンディッシュ嬢がすごく良かった。引き裂くような悲痛な悲鳴も、怯え切って自分を守るように身体を抱き締めるのも、不思議 そうにシシィを見上げるのも、夢を見るような眼差しでシシィの涙 をなぞるのも、とにかく印象的でグッと来た。泣けた。明らかに「おかしい」んだけど、見ていて不安をかき立てられるような精神の不均衡さではなくて、刺々しさもなく、どこか幼子のように純粋で、 狂気とのあわいを漂うようで、一連の流れが夢のように美しかった 。抱き合いながら、通じ合い慰め合う二人(※) に胸が苦しくなった(※ この二人にそう感じたの初めて!)。そういうわけで、今回のベストオブ場面はヴィンディッシュ嬢(というか「病院訪問」)です。 すごく好き。海乃美月is GOD.

・月城ルキーニは歌が安定しててよかった。色気薄め(マダム・ヴォルフへの興味も薄め)のルキーニで、ところどころで「粗暴」なところが見え隠れするのがわりと新鮮(ミルクの場面の「在庫がないんだ!」とか、キッチュとか)。ただ個人的な好みでいうと、 ルキーニはメタ的な狂言回し=他の登場人物とは次元を隔てて欲しいので、ちょっと引いて斜に見ててくれた方が好きかなあ(まあ、 霧矢ルキーニが好き過ぎて視線が歪んでるかも)。

・ルドルフはどっちも良かったんだけど、印象に残ったのは暁千星 (多分贔屓目もある)。全然耽美なルドルフではないんだけど、いかにも育ちが良さそうな甘っちょろいボンボンで、甘言に乗せられた挙句、現実に打ちのめされて、「もはや生きるあてもない」 って力なく洩らすのがすごく良かった。自殺したときルドルフは三十超えてたんだよ、とかいうつまらない現実はノーサンキュー。若 くて人生と人間を心底信じてる純粋な青年が絶望するのが最高なんじゃん(最低な感想)。風間柚乃ルドルフの方が年齢高めで賢そうなルドルフだったので、「 ルドルフって下手に設定年齢上げると難しいんだよなあ」って思った。でも正統派の輝きがあって、これはこれで良かった。

・あと、エルマーやってるときの暁千星のヒゲ。童顔なのに超似合ってて、最高にいいヒゲ。善人ヒゲおじさんの役とかやって欲しい 。若い子に猛烈アタックされてうろたえる感じの、可愛いおじさんの役。超見たい。

・マクシミリアン公爵が珍しく「いい父親」だった気がする。大体この人って、家庭人(貴族)としての義務をほとんど放棄している癖に娘にはいい格好してて、「 無責任で自由奔放な父の犠牲になっているのはシシィなのに、シシィ自身がその事実に気付かず父を慕っている」って構図に毎回引っ掛かるんだけど(※)、今回は無責任なりにちゃんと「 娘を愛している父」で、印象がよかった。 やってることは一緒なんだけど、輝月ゆうまの持ち味かなあ。

(※「パパみたいに」の場面がたまにゾッとするほど冷たい場面に見えるときがある)

・「エリザベート」でいつも理解できないのは、ヘレネの役作り。 演出家の指示なんだろうけど、どうしていつも「道化」なんだろう 。今回、バートイシュルの衣装と髪型がいつも以上にひどいのとや たらとオドオドしているので余計そう思った。 ヘレネとシシィって、「きちんとお妃教育された姉」と「 自由奔放に育った妹」じゃないの? ヘレネがこうだと、フランツがシシィを見初めなくても(ゾフィの思惑通りヘレネと結婚したとしても)、不幸な結果に終わるようにしか見えない。ヘレネはシシィとの対比上、分かり易い美しさはなくとも自らを律することのできる(=そうするように育てられた)女性、として描かなきゃいけないと思うし、そうでないと「フランツが選び違えた」ってのが明確に出ないんじゃないのかなあ(これ、「意志薄弱ヘレネであれば王家の義務に従った(従うしかなかった)=エリザベートの魂は王家に収まるには大き過ぎた」って読ませる意図なら失敗してると思うんですよね。エリザベートが王家に馴染めなかったのは、凄かったとか優れていたとかではなく て、良くも悪くも「向いていなかった」(そしてそこで折れるほど彼女は弱くなかった)、それだけの話なのに、ヘレネがこうだと、「この(大して王家に嫁ぐ覚悟があるようには見えない)ヘレネにだってできることがシシィにはできなかったの?(それってどうな のダメじゃん)」ってなっちゃう気がする)

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・あと、細かいところでいうと、紫門ゆりやのグリュンネ伯爵が良かった。白髪混じりの時が超ダンディ。でもって、台詞がいい。「 バートイシュル行きの馬車が……」が特に良かった。

・今回、カフェの場面のトートの登場(こっそり)を見落とさなかったのが地味に嬉しい。めちゃくちゃ新聞でガードされて隠されて出てきたので、そりゃ「いつの間に!?」ってなるわな、って納得。 あそこ、妙にしれっとした顔で握手するトートが好き。トートと握手したエルマーが、自分の手を見ながら不審そうな顔をするのも好き(やっぱり、「死」の手は冷たいのかしらん)。

・女官たちのドレスが相変わらず素敵。ゾフィのドレスも、ルドヴィカのドレスも素敵。ああいうタイプのドレス(襟元が詰まってて、袖が肘のところで広がってるやつ)に弱いのでウキウキ。いかにも「 制服」風のデザインもツボ。小間使いたちの服ももう少しシッ クでクラシックなデザインになってもいいのに!

・フランツの衣装で一番かっこいい(でもって派手な)のは、一幕終りで着ているやつだと思うので、パレードの衣装はあれにして欲しい。白+赤のツートンカラーの軍服が似合うのなんて、前回宙組の真風涼帆くらい体格に恵まれたフランツだけじゃん……(これ、 霧矢大夢のときも同じこと思ったな)。

・トートの衣装はほぼパーフェクト。ただ、あの、「私が踊る時」 の赤いマフラー?襟巻き?ストール?だけは正直謎。え、なんなのどういう意図なの……。せめてもうちょっと彩度控えめだったらアリだったと思う。あとここの、ジャケットの袖のグラデーション模様が最高に美しい!好き!!