タカラヅカメモ

全組観劇のライトファンによる宝塚感想置き場。

東急シアターオーブ公演「マイ・フェア・レディ」/1・2回目

いかにも「古き良きミュージカル」といった佇まいで、宝塚に慣れ切った(でもって、ヅカオタになるきっかけが「小池修一郎の派手な舞台転換」だった)身にはちょこちょこ間延び感がなくもなかったんだけど、女優・朝夏まなとを愛でる演目として完璧だった気がするので文句はあまりない(※)。とにかく朝夏まなとのドレス姿(特に舞踏会の白)が輝かんばかりにキレイで、ガサツな花売り娘が超キュートで、不満げに顔を歪めるのがまさに朝夏まなと!(言語崩壊)くるくると楽しげに踊るときに長い手が一際映えて美しくて、超素敵だった。

(※ イライザとヒギンズ教授でいかにもミュージカルなデュエットソングの一つくらいはあっても良かったんじゃないの?、とは思った。歌と芝居が完全に分離している(=ショーアップされてない)っていうあたりに古さを感じる気がする(宝塚以外のミュージカルをほとんど見ていないので、偏見かも))

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もっとヒギンズ教授の男尊女卑的な部分にイライラする演目なのかと思ってたら、意外とそうでもなかったんだけど、これは多分、男尊女卑的な部分よりもむしろ「階級社会」的なところが押し出されてて、それにイライラするほど「身分差別」っていうものが私にとって身近じゃなかった(現実感がなかった)からかなあ、と思う。

そもそも、出会った当初のヒギンズとイライザが「男と女」じゃないんですよね。ヒギンズにとってのイライザは、「普通に生きていれば言葉を交わすことなど考えられない下賤なるもの(=花売り娘)」であって、「人間」ではない(すなわち「女(=欲望の対象)」でもない)(ヒギンズさんの認識はそれこそ、「拾った犬に芸を仕込んでいる」くらいのノリなんだと思う)。わりとひどい話なんだけど、「この時代なら当然そうなのである」って体で演じられると、「そうなのかしら」って納得できるので、そんなに嫌だとは思わなかった。あとそのおかげで、ヒギンズとイライザの関係性にセクシャルな匂いが一切しなかったのもよかった。これ、最初の段階から二人が「男女」だと、どこかいやらしい(おぞましい)話になっちゃう気がするんですよね。よくも悪くも朝夏まなとに色気がさっぱりないのもあって、寺脇ヒギンズと朝夏イライザの関係性が「紳士と少年」のそれと大して変わらない(性的なものが割り込む余地がない)。それがよかったと思う。

あと、ヒギンズさんって元々「知性」に重きを置いている人でなおかつ、その知性ランキングにおいて自分(と自分が認めた一部の人間(ex.ピッカリング大佐))を最上位においている節があるので、そりゃ当然全方位見下すよなあ(イライザなんかランキング外だよなあ)、って納得しちゃったというのもある(男尊女卑とか身分差別とか以前に、ヒギンズは明らかに自分以外の人間を全員バカだと思ってて、しかもそれを隠す気がない(悪いとも思ってない)人なんですよね。人としてはどうかと思うけど、ちゃんと自負するだけの実績と実力があるので、アリかナシかでいえばアリかなあ、って(それが魅力的かどうかは別にして))。

でもって、ヒギンズがこういう主人公の恋のお相手としては欠点だらけの人なので、「フレディの方がいい男じゃん」みたいな感想も見たんだけど、開幕早々イライザを路傍の石扱いするアレがある限り、フレディも大差ないと思うんですよね。結局のところ、フレディもまた「階級(≒振る舞い)相応に相手を扱う」という紳士のマナーの持ち主なわけで(フレディという青年が善良なだけに、ヒギンズよりもむしろ個人的には辛かったりする)。あのくだりがある以上、フレディが当て馬として強くなり過ぎない言い訳として、「腑抜けキャラ」をやる必要はあんまりないんじゃないのかなあ。そこだけちょっと不思議。

で、そんなヒギンズさんに、自分が一人の「人間」であることを認めて欲しい(認めさせてやる)っていうのが後半のイライザの行動原理なんだろうけど、そこに明確にヒギンズへの恋情があるかっていうとないんだろうな、って思った。というか、その感情をイライザはうまく定義することができなくて、(「対等な人間として認めて欲しい」と要求された)ヒギンズが提示した「恋愛(つまり、君は私のことが好きなのか/君の前に跪けといいたいのか)」にのっただけなのかしら、って印象。警察に電話したピッカリング大佐が、「友達ですよ」って(変な勘繰りはやめてくれ、ってニュアンス込みで)答えるじゃないですか。あれがすごくよかったし、結局イライザが求めていたのはそれだったんじゃないのかなあって。でも、「一人の人間として認めて欲しい」と要求されてすぐに「恋愛」に直結するヒギンズ教授は、それはそれでいかにもな偏屈頑固不器用オジサンが(意識していない部分で)どんどん美しくなっていくイライザに惹かれていた、ってことの証左(※)でしかなくてニヤニヤするし嫌いじゃないです。案外、この二人うまくいったんじゃないですかね。

(※ フレディをこき下ろすくだりなんかで、ヒギンズがナチュラルにイライザを自分の作品(=所有物)認識している気配を感じたんだけど、結構真剣にヒギンズさんはイライザを自分と同一視していて、「自分に対する賞賛」イコール「イライザへの賞賛」って無意識に思ってる(だから、イライザが怒り出すのも理解できてない)んじゃないですかね……。全部自分の手柄(イライザの努力を認めない)、って訳じゃなくて、自分を讃えながら、その「自分」に「自分が作り上げた、自分のイライザ」も含まれている、というか(でも全部無意識なので、本人には全くその自覚がない/だから、怒り出したイライザにマジで意味が分からない、みたいな顔をしちゃうし、それで一層イライザを怒らせちゃう)。あと、ヒギンズさんは、こと人間関係においては致命的に不器用(無能)な人なので、「知性以外の部分で相手を対等に認める枠」っていうのが、「親族(母親)」と「一定の敬意を払うべき年長者」と「恋人」くらいしかないのかもしれない(絶対「友人」っていう枠もないですよね、この人))

結局のところ、ヒギンズの一番の美点は自らの所有物である(と本人が無意識の内に思っている)「美しい貴婦人(イライザ)」に対して、性的な視線を一度も向けなかったところだと思う。それはヒギンズが、もはやイライザは(ヒギンズ視点でも)「一人の人間として認めるに足る存在である」ってことを自覚してなかったせいだとは思うんだけど、でも、人間として認めていない相手に(むしろだからこそ)性的な視線を向けられる人っていくらでもいるじゃないですか。イライザを「人間」として認めて初めてその発想に至るというのは、なんだかんだいって、ヒギンズが善良で健全である証だと思えたし、それで色々とヒギンズにヘイトを溜めずに見れたってのはある気がする。

そういうわけで、年の差恋愛ものとして普通に楽しかった。年の差恋愛ものの醍醐味ってまさに、「君はそういう対象じゃない」って言い張る(年長者側の)意固地なガードをいかにして崩すかってところだと思うので。マイフェアレディって、ヒギンズが嫌いにならなければ(偏屈で不器用なところにニヤニヤできるなら)、めちゃくちゃ楽しい演目なんじゃないかなあ。朝夏まなとなら、どういう風に演じたかなって思ったし、轟悠と若手男役とかで演ったら結構面白いような気もする。

てことで、諸々細かい感想は以下。

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・ちょこっと心配がなくもなかった朝夏まなとの歌が普通に上手くて、キレイな声で、嬉しかった(贔屓目なのは認める)。でもずっと裏声歌唱だったので、やや消化不良感気味。その辺りは次の「オン・ユア・フィート!」に期待。ダンスと露出度高めの衣装(下心)も以下同文。

・どの衣装も可愛くて、よく似合ってて、本当に楽しかった。意外とあの、ヒギンズ教授の家に初めて来るときの(色々間違ってる)おめかしが好き。あと、最初の花売り娘姿。ガッツリ踊るのがここくらいなので、印象がいいってのはあるかも。舞踏会のドレスはただただ美しかった。私、ホント朝夏まなとの顔好きだなあ。

・歌というと、フレディとイライザ父がめちゃくちゃ上手くてびっくりした。特にイライザ父(ドゥーリトル)は台詞声からいかにも「舞台の人」って感じで、一樹千尋さん(めっちゃ好き)を見てるような安心感。低く響くいい声っていうのが、宝塚ばっかり見てる身には新鮮っていうのもあり。

・フレディは役者が上手いだけに、ちょっともったいない役(典型的当て馬)だなあとも思ったんだけど、イライザ父は素敵な役だし見せ場もあるし、何よりキャラクタにハマっててすごく良かった。「運が良けりゃあ〜♪」のシーンが個人的にマイフェアレディで一番ノれる場面。曲が好き。見終わってからもこの歌がずっと頭の中をぐるぐるしてた。あと、「勝ち組の振りはごめんだ」って台詞が地味に印象に残ってる(ヒギンズは「これほど中身がない演説を初めて聞いた」ってこき下ろすけど、それがイライザ父の矜持なのねって思ったし、結構好きな生き方だな、とも)。

・ヒギンズ教授とは裏腹に、ピッカリング大佐は真っ当で人当たりのいい、良識ある大人の男性で素敵だった。必ずしも知性だけが人間の価値ではない、って思ってるし、ちゃんと途中からイライザを「友人」認識してる(だから恋愛関係なんて考えもしない)。ただ「友達ですよ」って答えるまで自覚はない(というか、必要に迫られて初めてイライザとの関係を言語化した)気はするし、この人はこの人で結構変な人ではあるので、友人の髪の色とか目の色をわざわざ気にしないよね、くらいの適当さもあるんだけど(ここでヒギンズが、「茶色!」って乱入してくるのが、数少ないヒギンズのデレ部分で、めちゃくちゃ好きです)。

・あと、ヒギンズ教授の母とピアス夫人がめちゃくちゃ良かった。好き。特にピアス夫人は、こういうシックなドレスいいなあ、素敵な役だなあ、ハマってるし上手いなあ、って、見ている間中ずっと楽しかった。この二人がイライザのことを気に掛けてくれるから、マイフェアレディが楽しいお話になってる気がする。